デイサービス長老大学

高齢者が若者を支える。高齢者と共に未来を創る。逆支援型デイサービス 長老大学 のブログです。


参考書紹介(2)『驚きの介護民俗学』長老大学での「聞き書き」と「傾聴」の使い分け

こんにちは。

長老大学代表の澤本洋介(@sawamoto482)です。

今日は、デイサービス長老大学に多大な影響を与えてくれた六車由実さんの『驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)』をご紹介します。

驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)

著者の六車由美さんは民俗学の研究者であり、介護職でもある方というユニークな経歴の方です。

本書では、介護施設でのご利用者さんの語りが民俗学的にとても魅力的であることや、民俗学の知識や技術が介護現場で役立つ可能性などが、豊富なご利用者さんのお話とともに書かれています。大変面白く、介護に興味の無い方にもオススメの一冊です。

 これまでに何度か書いていますが、デイサービス長老大学の「聞き書き介護」も、六車さんの介護民俗学を、素人なりにマネしてみるところからスタートしました。

私達に民俗学の素養はありませんでしたが、田舎暮らしに興味を持って関東から高知に移住した私達にとって、ご利用者さんの語る「暮らしのお話」はたしかに「驚きの宝の山」でした。

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「聞き書き」と「傾聴」の違い 

皆さんは民俗学的な「聞き書き」と福祉現場でよく聞く「傾聴」は同じものだと思われますか?違うものだと思われますか?

お話を聞きながらペンを走らせメモを取るのが「聞き書き」でしょうか?
相手の目を見て頷きながらお話を聞くのが「傾聴」でしょうか?

本書では、民俗学の調査手法としての「聞き書き」と介護現場における「傾聴」の違いについても鋭い指摘が書かれています。

聞き書きは、対話の中から調査対象者の言葉を聞き、書きとめることで民俗事象をとらえようとする。つまり聞き書きでは、言葉が重視される。

たしかに介護や福祉で「話を聞くこと」は「傾聴」と表現され、ケアや援助の場面の基本とされている。しかし、その「傾聴」で強調されているのは語られる言葉の内容の受け取り方ではなく、むしろ聞き手側の姿勢や態度ではないか。

たとえば、『社会福祉士相談援助演習』(白澤政和他編)では、「傾聴とは、単にクライエントの話を聴くだけではなく、聴いているということを非言語的に伝えるということも含んでいる」と定義づけられ、そして、そうした態度を示す応答技法として、相手の言葉をそのまま繰り返して反射する=単純な反射(おうむ返し)、相手の言葉をワーカーの言葉で言い換えて反射する=言い換え、相手が語ったことを要約して反射する=要約、相手の語ったことを明確にして示す=明確化と言った方法が有効であるとされている。つまり「傾聴」とは、そういった応答技法によって相手を安心させたり、勇気づけたりすることで、語られる言葉が示す内容そのものよりも、「言葉の中に隠された利用者の気持ち、思い、心の動き」を「察する」ことを目的としていると言えるだろう。

しかし、「利用者の気持ち、思い、心の動き」はそう簡単に察することが出来るのだろうか。そもそも、利用者はそうした「隠された気持ち」を深読みしてほしいのだろうか、などと偏屈な私は思ってしまう。

こう読み比べると、民俗学的「聞き書き」と福祉領域における「傾聴」には大きな違いがあることが良くわかります。

長老大学での使い分け

長老大学では、「聞き書き」を基本としています。民俗学における正式な手法とは違うと思いますが、話の内容そのものを書き留め、書き留めたメモを元にお話を聞かせていただいています。
メモを残しているのといないのとでは情報の蓄積度合いが全く違います。後に地域史料やネットで調べる時にも役に立ちますし、その後のお話の深まり方が変わってくると実感しています。

 

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一方で、ご利用者さんが不穏な状態でおられる時などは、ノートとペンを脇に置いて、傾聴の姿勢でお話を聞くこともあります。

 

福祉領域における「傾聴」の技法は、「気持ちを察する」という目的よりも、ご利用者にリラックスを促す場面など、お気持ちを楽にしてもらうような目的で導入されている部分が大きいと思っています。心理操作的な技法という批判もありますが、たしかに大きな効果があると実感し、だからこそ利用も必要最小限にしたいと思っています。

(傾聴などのカウンセリング技法や論理の問題点については次の本がわかりやすく、オススメです。過去記事:本の紹介『「心の専門家」はいらない』 )

たとえばある女性が「夫を許すことはできません!」と叫んだとする。日常場面であれば「どうしたんです、何があったんですか」と返す人が大部分であろう。一方、「ご主人に対して怒っているんですね」と、感情に焦点を当てて返すのが、カウンセリング的な応じ方である。二つの聞き方は異なっている。前者が妻と夫の関係や事態を視野に入れているのに対し、後者は主として妻本人の内面に目を向ける。


会話そのものを楽しみながら、地域や暮らしについて学んでいく場面では「聞き書き」の手法を活用し、どうしても必要な場面のみ「傾聴」の技法を活用する。
長老大学ではそんなふうに「聞き書き」と「傾聴」の使い分けを考えています。

 

地域の傾聴ボランティアさんの「傾聴」は、お話好きなボランティアさんがご自身のお話を少し控えて相手のお話を聞こうと心がけてくださるくらいの塩梅ですので、結果的に非常に良い感じのバランスだと思っています(笑)

 

コミュニケーションやインタビューについてはまだまだ試行錯誤中です。
よい方法や考え方など、おすすめ書籍やアイデアなど、ぜひ教えてください。

驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)

驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)