デイサービス長老大学

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子どもたちの渡し船〜吉野川とともに

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渡船場写真

こんにちは、長老大学オンライン支店スタッフのあいかわです!
 2022年ももう4分の1が過ぎましたね。桜の花も満開で、本当に景色のうつくしい季節となりました。
 今回は、T様の聞き書きをさせていただきました。T様とお会いするのは初めてでしたが、丁寧にご挨拶して下さり、緊張もすぐにほぐれました。
 子どものころ、T様のおうちは山の上のほうにあったそうで、学校へ行くためには吉野川を渡らなければならなかったそうです。また、川では魚釣りもしていたとのことでした。今回は、川にまつわるそれらのお話を紹介したいと思います。
(見出し画像はT.T写真提供の本山町昔の写真プリントより)

<自分たちで船を渡す>

T様:大方、学校まで1里はあった。あの吉野川をね、渡って、向こう岸の山じゃった。あの時分はね、船で渡ったのよ。10人ばあ乗れる船でね。船は木でつくってあった。西と東の、向こう岸とこっち岸に、川の上へ金(かね)のロープをずうっとひいてね、それの下へこう、動くような縄をひいてね、それを手でたぐって川を渡って行ったのよ。(場所は)今の、中央病院の下です。
 お船は大きいからね、転覆はせんかったね。お水がようけ出た後はね、やっぱりその船を扱う人(大人)が渡してくれたがね、普通の、水が出てないときは、自分で縄をくって行きよった。

 いくらロープがあったとしても、子どもが、自分たちで船を使って川を渡るというのは本当にすごいことだと思います。危険と隣り合わせだと思いますが、幸いにも転覆したことはなかったということでほっとしました。

わたし:船から落ちた子どもはいなかったですか?
T様:飛び降りよって、落ちるときもあったがね。(船から)出よったら、こけてね、落ちてね。濡れたらね、そこから歩いてまた帰ってね、着替えてきて、ほいでまた行ったこともありました。

 T様も川に落ちたことがあるそうで、着替えるために自宅に戻らなければいけなかった話を笑いながらして下さいました。

わたし:吉野川の深さは、どのくらいだったんでしょうか?
T様:深かったね。深いところは、2メートルばああるところもあったね。

 2メートルでは足もつきませんし、とても深いですよね。T様にお聞きしたところ、舟が通るところはそれよりは浅かったようですが、増水などで川を渡れないときもあり、そういうときはより時間をかけて迂回しなければならなかったようです。

T様:(船が渡るところは)ちょっと浅かったね。シケ(※時化:嵐のこと)があったときはね、ずうっと下(しも)へ回って、北と南に継いだく(橋)があってね、そこへ行って学校へ行きました。

 通学に小舟を使うというのは、なかなかないことなのではないかと思います。それに加えて、現在道路や橋などの環境が整備されてきているなかで、日本のむかしのくらしを知るという意味でも、とても貴重なお話だと感じました。


<囲炉裏に立てて、焼き魚>

また、T様は子どものころ、川での釣りも楽しまれたとのことでした。

T様:学校の休みのときはね、うちがだいぶ(山の)上じゃったからね。竿を持ってね、家から走っておりて、川の谷へね。そこでお魚を釣ってね、ほしたら持って帰って、自分でさばいて、焼いてね。囲炉裏へね、お魚を竹の串に突き刺して、囲炉裏のふち周りにずうっと、10本ばあ立てて、焼いてね。おかずはそれを焼いて食べたということもありよりましたね、ふふふ。 お魚はね、人差し指くらいの大きさのがあった(釣れた)がね。お魚は、自分でさばいて、中のワタをのけてね。 釣りはね、妹と行ったり、弟と行ったりね。お兄さんたちは学校から帰っても農家の手伝いがあったけね。

 T様の語り口から、囲炉裏を囲んだ家族団らんの様子があざやかに目に浮かびました。囲炉裏については、以前テレビで見たことがあるのですが、囲炉裏でじっくりと焼いた魚はとてもおいしそうで、わたしもいつか食べてみたいなと憧れの気持ちをいだいています。高知の清流で育ったお魚はきっとすごくおいしいのだろうと思います。
 また、T様が釣りに使用していた釣竿について、当時手づくりのものを使っていたそうです。

T様:釣竿は手づくりでしたね。竹をね、小さい竹を切って、その竿に、紐じゃないけんど、テングス(テグス)をつけてね。その先へ、鉤(かぎ)になった、釣り針をつけて、その竿をかたいで(かついで)、谷まで持って行ってお魚を釣ったね。

 T様によると、山に住んでいた当時、肉はあまり手に入らなかったそうです。T様の釣ったお魚は、おいしい食材であるだけでなく、貴重なたんぱく源だったのだなと思いました。

T様は終始にこやかで、冗談も交えながらとても楽しく思い出を聴かせていただきました。わたしにとっても、川とともにくらしを営む方々にとっての日常を知ることができ、今回もとても貴重な経験となりました。
 T様、素敵なお話を聴かせていただき、本当にありがとうございました!